診療コラムMedical column

頭皮冷却装置の導入 ~乳がんの診断・治療~

乳腺外科・乳腺外科部長 伊東 悠子 2024年03月01日 乳腺外科

頭皮冷却装置の導入

当院では、2024年2月より、乳がんの手術前に抗がん剤投与を行う方と手術後に抗がん剤投与を行う方を対象に抗がん剤投与中の頭皮冷却装置(PAXMAN)を導入しました。
頭皮冷却装置は、抗がん剤投与中の脱毛を予防するための装置です。抗がん剤は体内の
急速に分裂するすべての細胞を標的にすることで効果が発揮されます。

  • 毛母細胞は体内で2番目に分裂の速い細胞です。抗がん剤は毛母細胞も標的にしてしまい、脱毛が引き起こされます。
  • 化学療法は毛包(毛の根元)を損傷し、治療の開始から約2週間後に脱毛します。
  • 化学療法が毛包に与えるダメージは頭皮冷却を行うことにより軽減できます。
  • 頭皮冷却により毛包への血流が減少し、脱毛を予防します。または、最小限に抑えることができます。
Paxman Scalp Cooling システム PSCS

Paxman Scalp Cooling システム PSCS

治療の実際

頭皮冷却を行う際は専用のキャップを装着した状態で、抗がん剤治療を施行します。抗がん剤投与を行う前の30分、投与中と投与後90分間、連続して冷却します。キャップを頭皮に密着させることにより、高い効果が得られますのでキャップカバーと顎のストラップで強く固定をします。

効果

  • 脱毛の軽減
    ほぼ100%の方に完全脱毛が生じる抗がん剤療法において、半分程度の方がウィッグを必要としない程度の脱毛ですみます。(脱毛が全く生じないわけではありません。)
  • 脱毛からの早期回復
    ウィッグを必要とする程度に脱毛をした場合でも、化学療法終了3か月後には85%の方がウィッグを必要としない程度まで毛髪が回復します(頭皮冷却を行わない場合は50%です)。

副作用

重篤な副作用はありませんが、ストラップ締め付けによる顎痛(75%)、頭皮冷却に伴う寒気による不快感(68.8%)・頭痛(71.9%)・額痛(40.6%)・めまい(40.6%)・悪心(43.8%)などが報告されています。ほとんどの場合、装置をはずすとすみやかに改善します。

費用

保険診療ではないため、頭皮冷却に関わる費用は全額自己負担となります。
抗がん剤投与の回数で費用負担は変わります。また、医療費控除の対象にはなりません。

~乳がんの診断と治療~

当院乳腺外科では、乳がんをはじめとする乳腺一般の病気の治療を行っています。なかでも乳がんは日本人女性のがん罹患数(がんと診断された患者さんの人数)が1位のがんです。現在では、9人に1人が乳がんになると言われています。30代後半から増えはじめ、40歳代後半から60歳代にピークを迎え比較的若い人に多いがんと言われています。また乳がんは男性にも発生することがあり、女性と同様、多くの場合乳管から発生します。男性乳がんに対する治療の流れは、基本的には女性乳がんと同じで、予後は女性乳がんと比べて大きな差はありません。

乳がんは乳腺の中の乳管や小葉という組織の上皮細胞から発生します。他の臓器のがんと比べ比較的ゆっくりと増殖するものが多いのですが、時間とともに腋窩のリンパ節、さらに鎖骨上や頚部のリンパ節、肺、骨、肝、脳などに転移を来たし生命を脅かすようになります。

乳腺葉の拡大図

出典「国立がん研究センターがん情報サービス」

乳がんの診断と治療

乳腺の検査の基本は視触診とマンモグラフィ、超音波(エコー)検査です。検診にて要精査となった方や乳房のしこりを自覚されるなどして受診すると、まずこの3つの検査を必ず行い、両側の乳房全体を評価しています。
その3つの検査所見に応じて必要があると判断した場合に穿刺吸引細胞診や組織診(針生検、吸引針生検など)を行います。

マンモグラフィ
マンモグラフィ

出典「国立がん研究センターがん情報サービス」

超音波検査
超音波検査

出典「国立がん研究センターがん情報サービス」

細胞診

細胞診は、超音波などの画像を見ながら病変に細い針を刺し、注射器で吸い取った細胞を顕微鏡で調べる検査です。この検査方法を、穿刺吸引細胞診といいます。乳頭からの分泌物がある場合は、分泌物に含まれる細胞を調べて診断することもあります。

組織診(針生検・吸引針生検・外科的切除)

組織診は、マンモグラフィや超音波検査で確認しながら病変の一部を採取し、顕微鏡で調べ、確定診断を行う検査です。組織診では通常、局所麻酔をして注射針より少し太い針を使って組織を取る「針生検」が行われます。手術で組織を取る「外科的生検」が行われる場合もあります。

乳がんと診断されたら、必要に応じて造影ダイナミックCT検査と造影MRI検査を行い、乳がんの広がりや他臓器への転移を調べます。

乳がんのステージ分類

日本乳癌学会編.乳がん診療ガイドライン2022年版.金原出版

乳がんの治療の流れ

乳がんと診断したときに、エストロゲン受容体(ER)、プロゲステロン受容体 (PgR)、ヒト上皮増殖因子受容体2型(HER2)、Ki-67免疫染色陽性率(Mib-1)の検査を追加で行い、乳がんのサブタイプを調べます。
個々の患者さんの乳がんの状態に応じて、1.手術療法、2.薬物療法、3.放射線療法を組み合わせて行っています。

手術先行か薬物療法先行かはサブタイプや腋窩リンパ節転移の状況などで決定されます。現在、HER2陽性の乳がんとホルモン受容体陰性・HER2陰性(トリプルネガティブ)乳がんは薬物療法を先行して行うことが多いです。

1.手術療法

乳房切除には、乳房全摘術と乳房部分切除術があります。乳房部分切除術は、腫瘤を中心とした乳腺(乳房)を部分的に切除する方法です。がんが大きい場合は適応になりませんがその場合でも手術の前に抗がん剤治療やホルモン療法を行ってがんを縮小させた後に手術をすることで乳房を温存することが可能になることもあります。腋窩については、センチネルリンパ節生検によるリンパ節の転移診断を標準的に行っておりますが、明らかにリンパ節転移がある場合は腋窩リンパ節郭清を行います。

センチネルリンパ節とは、がん細胞が乳房内からリンパ管に入り、リンパ液の流れに乗って転移するときに、最初にたどりつくリンパ節のことです。
腋窩リンパ節は脇のリンパ節のことです。

2.薬物療法

抗がん剤である化学療法、ホルモン治療、分子標的治療薬などの各種の薬剤を主体とした全身療法です。個々の患者さんの乳がんの状態に応じて、手術前・手術後に再発率を下げるために行う補助療法と、再発・転移した場合に生活の質を保つためや延命のために転移巣に対して行う治療があります。

3.放射線治療

乳がんの手術後に行うとき、乳房部分切除術の後に残った乳腺に行う場合と、リンパ節転移が4個以上認められる場合に胸壁、鎖骨上や内胸のリンパ節に対して行います。

乳房再建

乳房全摘を行う場合、形成外科と連携して乳房再建を行っています。再建方法には、ご自身の腹部や背部の組織を移植する方法(自家組織移植法:腹部穿通枝皮弁法、広背筋皮弁法など)と、シリコンバッグを挿入する方法(エキスパンダー・インプラント法)があります。
当院では、形成外科が非常勤のため、一次二期再建(乳房切除術の時にエキスパンダーを挿入し、半年程経過した頃にシリコンバックに入れ替える方法)を行っています。

遺伝性乳がん卵巣がん症候群

BRCA1またはBRCA2という遺伝子に生まれつき遺伝子が正常に働かない異常(病的バリアント)があるため、一般の人より乳がんや卵巣がんが発症しやすくなっている状態です。日本では、乳がん症例の1.45%にBRCA1病的バリアントが,また2.71%にBRCA2病的バリアントが認められたという報告があり、卵巣がんでも11.8%にBRCAの病的バリアントを認めたとする報告があります。

BRCA遺伝子に異常がある場合、乳がん・卵巣がん・前立腺がん・膵がんなどの発症が一般の人よりも高くなることが知られており、乳腺や卵巣の予防切除などの選択肢があります。

当院でも、乳がんと診断された方を対象にスクリーニング・血液検査を行い、術式選択に用いています。

頭皮冷却の詳細については、乳腺外科までご連絡ください。

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