【第5回】膵癌の治療について
(連載全5回)
消化器内科医のつぶやき 膵癌の治療編 連載第5回
ついに最終回です。今回は治療についてのお話になります。
そろそろバテてきています。文章も固くなりがちです。
ごめんなさい。
治療について
1) 手術
膵癌に限らず、消化器の癌は切れるなら切った方がそのあとの成績がよいです。現在でも根治ができるほとんど唯一の方法です。発見が早期で膵癌が局所にとどまっている状況であれば外科的に膵切除を行います。ただし膵癌については手術の前に薬物療法を行うと術後の成績が良くなることが知られており、当院でもガイドラインに則った治療を行っています。
手術は癌の場所によって膵頭十二指腸切除術や膵体尾部切除術が行われます。いずれも比較的大きな手術になりますが、当院外科では両者とも対応しておりますので診断後スムーズに手術までご案内が可能です。
2) 薬物療法(化学療法)
抗がん剤を用いた治療が主になります。近年では手術が可能な症例でも、最初に薬物治療を行ってから手術をすることが多いです。以前は奏効率が低かったですが、薬物治療の進歩で成績は向上しています。ただし、残念ながら完全に癌を駆逐する力はありません。当科では下記のような化学療法行っております。それぞれの治療にはそれぞれの適応があります。患者様の状況に応じて適切な治療をご提案します。
a) FOLFIRINOX療法
b) ゲムシタビン+ナブパクリタキセル(GnP)療法
c) ゲムシタビン+S1(GS)療法
d) リポソーマルイリノテカン・5FU/LV(FF/nalIRI)療法
e) ゲムシタビン療法
f) S1療法
g) ペンブロリズマブ療法
h) オラパリブ療法
既存の薬物療法では効果がなかった場合は遺伝子パネル検査を行って、使用可能な薬物療法がないか検索する方法があります。当院ではパネル検査を行っていませんが、希望がある方には適切なタイミングで高次医療機関に紹介しております。
3) 放射線療法
膵癌が局所にとどまっている場合、放射線治療を行うことがあります。高度な技術が必要な定位放射線治療も当院は対応しております。最近では陽子線治療や重粒子線治療が保険適応になりました。陽子線治療や重粒子線治療は当院で行えませんが、適応がある方には治療をご提案し高次医療機関へ紹介させて頂きます。
4) 黄疸に対する治療
膵頭部に発生した膵癌の場合、胆管が閉塞することでしばしば黄疸が生じます。黄疸があると肝機能が悪くなり、致命的になります。また感染が生じると急激に状態が悪くなります。うっ滞した胆汁を逃すためにドレナージが必要になります。当科では下記のような方法でドレナージを行っています。
① ERCP
内視鏡を経口的に挿入し、胆管の出口である十二指腸乳頭を観察します。乳頭に細いカテーテルあてがって、胆管にガイドワイヤーを挿入し、狭窄を突破します。ステントをガイドワイヤーに通して、ステントの先端が狭窄部の上流に位置するように留置します。ステントにはプラスチック製と金属製があります。金属製の方が長持ちする傾向がありますが、陽子線治療や重粒子線治療には向きません。第一選択になる技術ですが、十二指腸狭窄が生じている場合は施行できないなど制約があります。
② PTBD(PTCD)
体表から肝臓の内部にある拡張胆管をエコーで描出して針を穿刺します。穿刺針からガイドワイヤーを挿入し、透視画像で確認しながらワイヤー先端が適切な位置に収まるように調整します。ドレナージチューブをワイヤーに沿って挿入して固定します。チューブが体表に出ることになりますので、生活に不便さが生じてしまうデメリットがあります。一方閉塞しても比較的容易に対処できるメリットもあります。やっぱり最終的に体の外に管が出る、というのは結構つらいものです。というわけで最近あまり行わなくなりつつあります。そこで最近は代わりに次の方法が取られることが多いです。
③ EUS-CDSあるいはEUS-HGS
超音波内視鏡を使って拡張した肝内胆管を十二指腸、あるいは胃から描出し、消化管内から胆管に穿刺し、ステントを留置する方法です。近年急速に発展してきた技術です。なんらかの理由で内視鏡が十二指腸乳頭に到達できなくても施行できます。術後に体表からステントが出ないのでQOLが保たれること、開存期間も比較的良好であることがメリットです。ただし偶発症が生じた際は重篤になりやすい、専用器具の開発が遅れているなどのデメリットもあります。超音波内視鏡に習熟した医師が必要ですので施行できる施設も限られているのもデメリットの一つです。当院では自院で施行可能ですので適応のある方にはご案内しております。
治療について説明してきました。
皆様の少しでも理解につながればと頑張ってみましたが、ちょっと細かく書きすぎてしまいました。かえって分かりにくくなってしまったかもしれません。
反省です。どうかご容赦ください。
さてこの連載もついに最終回となりました。
これまでずっとお付き合いいただいた方がいたかどうかは分かりませんが長々とありがとうございました。
出来れば膵癌にならないのが一番なのですが、近隣の方で膵癌の恐れがある、膵癌と診断された、ということがあれば当科にご相談ください。患者さんの状態と状況に合わせて適切な検査を予定させていただき、一人一人に適切な治療をご案内いたします。